野球の物理的側面を切り取り、さらなる発見、理解、検証のツールとなるトラッキングデータ。MLB においてその測定対象と公開範囲は年々広がっており、中でも投球の変化量、投球位置などを表す「ピッチトラッキングデータ」は投球分析のツールとして重宝されてきた。しかし、これらはあくまで投球そのものの動きや位置を記述するツールである。その投球が打者の目にどう映ったか、言うなれば、より野球的な意味を持つ記述がピッチトラッキングデータだけでは十分にできなかった。

バットトラッキングが測るものとは

その空白を埋める可能性を持つのが、バットトラッキングデータだ。打撃に関するトラッキングデータは打球速度や打球角度など打球そのものの物理データは既に公開されていたが、それらを生み出すバットの動きである Bat Speed や Swing Length といった「バットトラッキングデータ」が 2024 年、新たに公開されたのである。2025 年にはさらに、Swing Path Tilt Attack AngleAttack Direction といったスイングの形状を表すトラッキングデータが公開された。これらのバットトラッキングデータは本塁打や空振りのようなイベント結果よりも、さらには打球速度や打球角度のような打球情報よりも打者の「反応」が探れるものとなる。そして野球の構造上、その反応は対峙した投球を映す鏡でもある。

打者は投球によってスイングの形状を変える。打者が目指す打球の質は基本的には一貫しているが、投球コースや球速などは常に変化する。そのため、理想的な打球を生み出すために必要な動作も投球ごとに異なるのだ。裏を返せば、スイングの形状を分析することで、打者が想定していた投球を逆算できるということになる。

投手と打者の対戦を 3 次元で捉える際、野球界では一般的にマウンドとホームプレートを結ぶ軸を y 軸とする。この y 軸は投手視点や打者視点における奥行であり、野球ファンには馴染み深い「緩急」を捉えやすい軸である。トラッキングデータの普及により、投球コースや変化量を示す xz 平面を目にする機会も増えた。もちろん、この平面は投球分析において重要だが、本分析では出発点として、比較的シンプルに評価できる y 軸に着目し、投球の緩急を捉える。

Swing Length と Intercept Point Y

現状のバットトラッキングデータのほとんどは打者のタイミング情報も含まれているが、y 軸に対する情報量が多いものと言えば Swing Length Intercept Point Y だろう。

Swing Length はスイングの始点からバットがボールに最接近した地点までにバットが動いた 3 次元的な距離である。x 軸や z 軸への移動距離も含んでいるとは言え進んだ距離はその時間と相関しており、タイミング情報として Swing Length を活用するのは合理的と言える。

Swing Length のイメージ
参考: Swing Length のイメージ

Intercept Point Y はバットがボールに最接近した地点までの y 軸における距離(ここでは基準を各打者のスイング開始時の重心としたものを使う)である。Intercept Point Y は文字通り y 軸におけるズレと対応し、投手からホームプレートに向かうボールをバットで捉えるという打撃における奥行きを捉えられる。

Swing Length のイメージ
参考: Intercept Point Yのイメージ

タイミング情報としての Swing Length と Intercept Point Y の違いを確認するためにそれぞれを説明するモデルを構築した。ベースラインとなるモデルには固定効果として投球コース、投手の利き手、ピッチカウント、ランダム効果として「打者:シーズン」を組み込んでいる。これらの変数から期待される値から乖離した部分をズレとして扱う。そしてそのベースとなるモデルに球速という緩急における中核をなす変数を追加したモデルでの説明力の向上を見る。

表 1: Swing Length、Intercept Point Y の球速による説明力の変化
Swing Length のイメージ
※ 一般化加法混合モデル(GAMM)を使用

Swing Length も Intercept Point Y も球速という変数によりモデルは向上しているが、その幅は Intercept Point Y に軍配が上がる。全体としての説明力は Swing Length が優勢なように、身体的な制限を受けやすい Swing Length と比較的「遊び」のある Intercept Point Y という見方もできる。

例えば、打者の想定より遅い投球に対して、体ごと投手側に突っ込んだスイングになることがあるが、その時のタイミングのズレは Swing Length より Intercept Point Y の方が拾えるのだ。

このズレ = 残差を使って分析を進めるが、結論として Swing Length と Intercept Point Y のどちらのモデルを利用しても大きな違いはない。ただ今回は球速に対する反応がより敏感に現れる Intercept Point Y を使うことで解釈性の向上も図る。

タイミングのズレと得点価値

まず全体の傾向を掴んでおこう。

Swing Length のイメージ
図 1: ベースラインモデルにおける打者内標準化残差の分布
※ バント、野手登板は除外

図 1 はベースラインモデル(球速が説明変数として組み込まれていないモデル)における Intercept Point Y のズレを打者ごとに標準化した値を可視化したものである。正の値が投手側であり、右側にいくほど投手側で捉えていることになる。赤い線が得点価値(xRun Value [1])、青い線が空振り率、緑の線がゴロ率を示している。打者のタイミングは得点価値が最大化するポイントではなく、空振り率が最小化するポイントに集中していることが見て取れる。スイングをしない時の得点価値(当然、よりボール球をスイングしないことで最大化する)も考慮するとスイング判断を遅らせることに合理性があるが、実態として、平均から +1 標準偏差付近の地点(実際には上位 17.5%)で得点価値は最大化しており、その地点を越えると急速に最小化に向かうという、打撃におけるタイミングの繊細さもうかがえる。

「緩急」の代名詞、カーブとチェンジアップ

では緩急を語る際に登場する頻度の高い、代名詞とも言える球種、カーブとチェンジアップではどう分布しているだろうか。

Swing Length のイメージ
図 2: ベースラインモデルにおける打者内標準化残差の分布(カーブ)
※ Baseball Savant の球種分類に基づく

図 2 はカーブにおけるベースラインモデルである。分布の山が +0.5 標準偏差付近の地点に位置しており、打者がカーブに対してタイミングを投手側にずらされていることが分かる。ただ、得点価値の傾向も全体とあまり変化がないため、むしろ投手側にずらされることでタイミングの分布と得点価値の傾向が “ 一致してしまっている ” 状況とも言える。

Swing Length のイメージ
図 3: ベースラインモデルにおける打者内標準化残差の分布(チェンジアップ)
※ Baseball Savant の球種分類に基づく

図 3 はチェンジアップにおけるベースラインモデルである。分布の山はカーブと同じく +0.5 標準偏差付近の地点に位置しており、チェンジアップもタイミングをずらす球種として機能している様が分かる。ただ、得点価値の傾向には少し違いが見える。チェンジアップは全体やカーブでの傾向のように +1 標準偏差付近の地点で最大化しているとは言えない。むしろ全球種における平均付近の地点で得点価値は最大化する傾向にあり、チェンジアップはタイミングの分布を得点価値の傾向からずらしているとも評価できそうだ。

球速という情報を制御する

ここまでは球速という緩急における中核をなす変数を組み込んでいない、つまり、球速によるズレがより顕在化されるモデルでの分布を見てきた。

ただ、それは本当に「緩急」を表しているのだろうか。

意見が分かれるところではあるだろうが、緩急という言葉が使われる際、時として「球速以上」に速い / 遅いのように、物理的な球速と体感的な球速のズレを指す場合もある。そこで、先ほどのベースラインモデルに球速という変数を追加したモデルからのズレを見ることでその観点からも緩急を捉える。

Swing Length のイメージ
図 4: 球速を制御したモデルにおける打者内標準化残差の分布(カーブ)
※ Baseball Savant の球種分類に基づく

図 4 は球速という変数をモデルに組み込み、その影響を制御した場合における打者内標準化残差の分布を示している。タイミングの分布の山を見ると、平均値付近から少し打者側の地点に位置しており、カーブは球速以上に打者のタイミングを投手側にずらしている傾向は見えてこない。そして、得点価値も分布の山付近で最大化しており、一般的な傾向としてカーブは球速以上の緩急で価値を生み出せていない状況と言える。

Swing Length のイメージ
図 5: 球速を制御したモデルにおける打者内標準化残差の分布(チェンジアップ)
※ Baseball Savant の球種分類に基づく

図 5 はチェンジアップにおける球速を制御したモデルでの打者内標準化残差の分布である。カーブとは対照的にチェンジアップは球速という緩急の中核をなす変数を制御してもなお、打者がタイミングを投手側にずらされている様が見て取れる。得点価値の傾向を見ても、打者は得点価値が最大化される期待値付近の地点まで投球を待てていない。同じ緩急をつける球種でも、カーブは主にその球速で、チェンジアップは球速以外の要素も含めて打者のタイミングをずらしているようだ。

チェンジアップの特異性

ではこれらを指標化し球種ごとの特徴を見ていこう。

タイミングは主に二つの視点から評価できる。一つは、文字通り「タイミングを外す」という視点で、先述してきた打者内標準化残差を絶対値として評価し、そのズレの大きさ(Disruption)を測る。もう一つは「タイミングの遅速」という視点で、残差の生の値を評価し、打者を差し込んでいるのか、泳がせているのかというズレの方向の強さ(Bias)を測る。

表 2: 球種別タイミング指標
Swing Length のイメージ
※ Disruption は分布の広さ、 Bias は分布の位置(正の値ほど投手側)を示している

表 2 は各球種におけるタイミング指標について、モデルごとに平均値をまとめたものである。得点価値の傾向にも「山」が存在する以上、その山の中心を回避している割合が大きいほど投手にとって有利になると考えられる。残差の分布の広さ、つまりズレの大きさを表す Disruption は見事に速球とその他の球種で分かれており、一般的に変化球と呼称される非速球が打者をタイミングで惑わせている様が見て取れる。

Bias がいわゆる「緩急」を表しているが、 こちらはベースラインモデルと球速を制御したモデルで顕著に違いが確認できる。ベースラインモデルでは速球と非速球で正負に分かれており、球速という情報の強さがうかがえる。ただ球速を制御したモデルでは、非速球のうち Breaking と分類されるカーブ系やスライダー系については打者が投手側にタイミングをずらされておらず、球速以上の緩急はつけられていない。Offspeed と分類されるチェンジアップやスプリットは球速という情報を制御してもなお、打者が投手側にタイミングをずらされており、球速以外の要素(主にその軌道と考えられる)で y 軸をずらす貴重な球種となっている。

タイミングを外すというスキルは存在するか

さて、実際に投手にとって打者のタイミングを外すことは「スキル」として存在し、どの程度投手の「価値」と関わりがあるだろうか。

今回のテーマに限らず共通して言えることではあるが、あらゆる指標はその「一貫性」と「記述性」で評価できる。一貫性が確認できない評価軸はその対象(選手や球団等)における当該スキルの再現性、ひいては貢献性に疑念を持つべきであり、記述性が確認できない評価軸も野球という競技内での有用性、ひいては貢献性に疑念を持つべきである。具体例を出すと、前者は「ピタゴラス勝率(もしくはそれに類する推定勝率)と実際の勝率の乖離度の監督評価への適用」だろうか。

では、タイミングを外すという現象について投手の目線から一貫性と記述性を評価する。

表 3: 各タイミング指標の一貫性と記述性
Swing Length のイメージ
※ ピアソンの相関係数(r)、一貫性は折半法で計算 [2]

まず分かりやすい一貫性についてだが、こちらはかなり高い相関(r ≧ 0.950)を示しており、投手以外の環境要因もある程度制御していることからも、投手固有のスキルとして存在していると決定付けて良いだろう。投手ごとに球種構成の特徴がある以上、それらにも大きく依存するタイミング指標が投手のスキルとして存在することは理にかなっている。参考としてこの状況での Bat Speed のズレの一貫性は r = 0.883 である。

記述性に関して、野球においての価値を示す得点価値(xRun Value)と投手のカラーを表すとも言える打球傾向(ゴロ率)について見ていきたい。

基準からの絶対値である Disruption はその基準点によって取る値は変動するため、基準点を得点価値の記述性が最大化されるポイントに設定している。Disruption と得点価値の間には負の相関が確認でき、y 軸のズレが大きいほど打者にとって不利になるという傾向が確認できる。ただその関係性の強さは限定的(参考:Bat Speed のズレの記述性は r = 0.428)で、xz 平面のズレという今回取り上げていない観点での記述の余地が残されている。 ただ、興味深いのは球速を制御したモデルの方が相関は強く、これは打者が球速によって対応を変えているだけでなく、その対応が一定の効果を得ていることも示唆される。投手にとっては、球速に頼ってタイミングを外すよりも球速以上にタイミングを外すことを意識した方が良いということだ。

ゴロ率に関しては球速を制御していないモデルの方が記述性が高く、打者が投球によって対応を変えるうえでの限界も見えてくる。図 1 ~ 図 3 からもゴロは打者側の地点でより発生していることが分かる。これはスイングの軌道上避けるのが難しい傾向であり、球速を制御したモデルにおいてゴロ率の記述性が落ちるのは、打者がスイングの始動や軌道については球速に応じた最適化を十分に行えていないことが示唆される。

また、これらの指標は投手の特徴を捉えることの一助となる。

例えば、2024 ~ 2025 年の MLB において最強格の投手であるタリック・スクーバルとギャレット・クロシェはその特徴に明確な違いがある。この期間のスイング時の xRV について、スクーバルは MLB 内で上位 14.8%、クロシェは上位 11.7% であるが、y 軸のズレを指標化した Disruption(球速制御モデル)においてはスクーバルは上位 19.7% でクロシェは上位 41.7% である [3]。チェンジアップを駆使し、y 軸のズレから打者を制圧するスクーバルと、動きの異なる多様な速球を投げ分け xz 平面のズレから打者に的をしぼらせないクロシェの投球戦略の違いが浮き彫りになっている。

補足:球種分類の危険性とスイングをさせないという価値について

最後に補足として、球種分類の危険性と今回の分析で対象外となっている要素についても触れたい。

ここまでカーブやチェンジアップといった「球種」について Baseball Savant の分類に基づいて分析を進めてきた。ただ、もちろんこれらの分類は球速や変化量のように物理的事象を直接表しているわけではない。本来は連続値として存在している各投球の物理的特徴を、便宜的に離散化(カテゴリ化)しているに過ぎない。つまり、カーブの中にはナックルカーブやスライダーに近いものもあり、それらの逆もある。全体として機能しているため今回はそのまま利用したが、特に投手個人の分析においては球種というカテゴリ情報ではなく連続値としての物理情報に目を向ける必要がある。

そして、今回のタイミング分析において対象外となっている要素も存在する。 表題にもある通り、今回はバットトラッキングデータを活用したタイミング分析であり、そのデータが存在しない「見逃し」については対象となっていない。そして、見逃し時の結果も球種ごとに特徴はあり、決して無視できない差がある。

表 4: 球種別見逃し時の得点価値
Swing Length のイメージ
※ ピッチカウント、アウトカウント、ランナー状況に依存する得点価値を集計

表 4 は見逃し時における球種別の得点価値とストライク、ボール率を示したものである。スイング時のタイミングにおいて高評価だった Offspeed 系が群を抜いてストライク率が低く、逆に低評価だった Fastball 系はストライク率が高く、役割の違いが目に見える。見逃しもスイングもほぼ同じ割合で発生する以上、見逃し時の価値も無視できない要素であり、スイング時に打者を攪乱できる Offspeed 系に頼りすぎることも良い戦略とは言えない。

また表 4 において興味深いのはスイング時に球速以上のタイミングのズレを出せていないカーブである。カーブはストライク率と比較して得点価値が高くなっており、これはストライクがより大きな得点価値となる、つまり、レバレッジが高まり打者がより積極的になる状況での見逃しストライクが多いことを示唆する。スイング時において球速以上に打者を惑わせている様は見て取れなかったが、そもそもスイングをさせないという惑わせ方もある球種と言えるだろう。

まとめ

今回は打者と投手の対戦をタイミング、奥行きの観点から探究した。

タイミングにおいて球速は重要な変数だが、球速以上のタイミングのズレが得点価値とより関連する。その観点ではカーブは価値を出しているとは言い難く、チェンジアップやスプリットのような速球を偽装する Offspeed 系の球種の価値が際立った。

また、投手固有のスキルとしてこのタイミングの攪乱は存在するが、y 軸はあくまでも 3 次元における一側面にすぎず、記述性は高いとは言えない。

今後の展望として、今回分析の対象としなかった xz 平面のズレにも着目していきたい。

    脚注
    [1] 打球部分を打球速度、垂直打球角度、水平打球角度、年度で予測した Run Value(学習データは 2021 - 2025 )、非打球部分ともにアウト/ランナー状況を中立化している。
    [2] 500 被スイング以上の投手に対して、ランダムに分割した 2 群間の相関係数を算出しており、スピアマン・ブラウンの公式による補正を行っている。
    [3] 500 被スイング以上の投手が対象。上位 15% 程度では物足りなさがあるかもしれないが、先発として投球数も見逃し時の得点価値も傑出しており、リリーフや高 BB% 投手の中に混じっているという点で異質である。

沖原 大知 @GHiLiBall
幼少期から野球に打ち込み、大学入学後にMLBに興味を持つ。次第にセイバーメトリクスに魅了され、『Tango on Baseball』をはじめとする海外の文献から知見を深める。トラッキングデータの活用を好み、現在はnoteを中心に自身の分析を発信している。
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