野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“デルタ・フィールディング・アワード2026”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介しながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は右翼手編です。受賞選手一覧はこちらから。
対象右翼手に対するアナリスト7人の採点

右翼手部門は柳町達(ソフトバンク)が69ポイントを獲得し、初受賞となりました。アナリスト7人中6人から1位票を集めています。右翼は2023年から3年連続で万波中正(日本ハム)が受賞してきた部門。強肩で知られる万波の時代がしばらく続くかと思われましたが、今季はその座が入れ替わりました。
柳町は昨季の左翼手部門で2位に入った選手です。今季右翼での守備イニングは537.2と全体(1300イニング弱)の半分以下でしたが、その少ない機会の中で広い守備範囲を見せたようです。中堅手部門の周東佑京とあわせ、ソフトバンクの外野手が2部門で受賞しています。
2位の西川史礁(ロッテ)は今季左翼手部門の受賞者でもあります。新人だった昨季に続いて左翼で2年連続の受賞を果たし、右翼でも全アナリストから3位以内の評価を受けました。ただ1人、西川に1位票を投じたアナリスト佐藤文彦は、アウトにするのが難しい低い飛球を多くアウトにしていた点を評価したようです。アナリスト宮下博志は、進塁抑止ARMの評価の高さを西川の強みとして挙げています。
3位以下は森下翔太(阪神)が48ポイント、万波が47ポイント、アレクサンダー・カナリオ(西武)が46ポイントと、1ポイント刻みで並びました。連続受賞が途切れた万波は4位。アナリスト道作は、「稲葉篤紀以来の右翼専業の名手の誕生かと思っていただけに、今季の守備指標は残念」と話しています。アナリスト沖原大知は、長打の抑止では優秀だった一方、アウトを取るという面では過去と比べて落ち込んだ年だったと指摘しました。
- 各アナリストの評価手法
- 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策回避)をやや改良。守備範囲については、打球の滞空時間別に細分化して分析
- 道作:現時点の実力を安定して測れる期間として、直近3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:UZRをベースにした。球場と左右打者別に処理した飛球(フライ・ライナー)の着弾点座標と滞空時間からアウト期待値を求め、評価の補助材料にした。走者二塁・三塁で飛球を捕った場面の進塁期待値も補助的に用いた
- 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策回避の3項目を考慮。ただし守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置付近からの打球方向を6分割し、距離と滞空時間で区分し分析
- 宮下:守備範囲、進塁抑止評価を機械学習によって算出。過去3年と比較しゼロサムになるよう調整
- 二階堂:UZRに球場補正を加えて評価
- 沖原:打球処理、進塁抑止(打者走者を含む)を一般化線形混合モデルで評価。球場や走者の走力などの外部要因を補正し、環境に左右されない守備貢献度を推定
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

ここでもトップは柳町。守備イニングは537.2と対象の7人で最も少ないものの、守備範囲評価RngRで5.0を稼ぎUZRは5.3を記録しました。2位の西川は3.5。プラスを記録したのはこの2人だけです。
連続受賞が途切れた万波は、昨季11.9だった守備範囲評価RngRが-3.0まで落ち込みました。強肩で知られる万波ですが、進塁抑止評価ARMも0.1と、昨季の-1.8に続いてイメージほどの数字ではありません。2022年から3.6、6.3、8.6と年々伸ばしてきたARMは、昨季から伸び悩んでいます。強肩が知れ渡ったことで走者が無理に進塁を狙わなくなり、肩で失点を防ぐ場面そのものが減っているのかもしれません。強肩で鳴らした過去の名手たちと同じ問題に直面しています。
昨季の右翼手部門で2位だった森下も、UZRは昨季の7.4から-1.6に。昨季5.2だったARMが-0.7となり、強みだった進塁抑止のプラスが消えました。来田涼斗(オリックス)はARMが2.0で対象7人の中で最高だった一方、RngRは-7.5と大きなマイナスです。
各選手が具体的にどのような打球を得意・不得意としているのか、処理状況を確認していきましょう。以降の図の値は、平均的な右翼手と比較してそのゾーンの打球処理でどれだけ失点を防いだかを示します。黄色い円に「定」と書かれた印は、おおよその定位置を表しています。

右翼手部門受賞の柳町は537.2イニングを守り、守備範囲評価は5.0。平均的な右翼手と比べ守備範囲の広さでチームの失点を5.0点防いだという評価です。図を見ると全体的にプラスのゾーンが多い一方、右中間後方ではマイナスが目立ちます。隣の中堅を守るのは、中堅手部門で3年連続受賞の周東佑京。右中間を周東に任せ、ライン寄りを守る方向に傾いていたのかもしれません。また定位置から遠い打球では大きなプラスを作れておらず、守備範囲評価で差は作っているものの、長い距離を走って打球に追いつくという一般的なイメージにおける守備範囲が飛び抜けているわけではなさそうです。

西川は554イニングを守り、守備範囲評価は3.0。図を見ても目立った得意・不得意のゾーンはなく、どの方向の打球も平均以上に処理できています。西川は昨季左翼手としてもこのように特段の強み・弱みがなく、まんべんなく守ることができていました。ちなみに後日記事を出す左翼手編でも同じ傾向です。今回右翼手編でも同様の傾向だったことから、ポジショニングの癖や明らかな強み・弱みがない外野手なのかもしれません。

森下は1083.2イニングを守り、守備範囲評価は-0.5。定位置に近い打球は確実に処理している一方、右中間の中堅寄りやライン際の前方など、定位置から離れた打球で失点を増やしています。

カナリオは1015.2イニングを守り、守備範囲評価は-0.4。後方の打球にかなり強く、特にフェンス際で多くの失点を防いでいます。

万波は979.1イニングを守り、守備範囲評価は-3.0。昨季は全体的にプラスで、特に右中間方向で大きなプラスを作っていましたが、今季はそうはいきませんでした。報道によると、8月には膝の状態を理由に出場選手登録を抹消されています。守備は打撃以上に身体のコンディションがパフォーマンスに影響されやすい領域。その影響が守備範囲評価の低下というかたちで表れていたのかもしれません。

増田は748.1イニングを守り、守備範囲評価は-1.1。右中間に極めて強い一方、ライン際に弱い傾向がはっきり表れています。そもそもポジショニングが右中間に寄っていた可能性が高く、本人の能力というよりは、少なからずチームの方針による部分もありそうです。

来田は656.2イニングを守り、守備範囲評価は-7.5。増田とは対照的に、ライン際の打球では強さを見せた一方、右中間の打球をかなり苦手としています。
総評
3年続いた万波の受賞が途切れ、柳町が初受賞となりました。ただし柳町の守備イニングは、対象の基準である500をわずかに上回る程度です。アナリスト宮下は、4位以下が全員マイナス評価だったことから、主力級の右翼手の守備が不安定なシーズンだったとしています。
アナリスト道作は、控え選手や守備固めで入る選手の方に優秀な結果を残した選手が多く、「最高の名手はおそらくその中にいる」と話しています。実際、守備イニングが500に届かず対象外となった佐藤直樹(楽天)は418イニングでUZR5.7、中島大輔(楽天)は350.1イニングでUZR6.0と、いずれも柳町を上回りました。来季以降、本命・万波の低パフォーマンスが続けば、引き続き準レギュラー級の選手にチャンスが回ってくるかもしれません。
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2026”受賞選手発表